「トライ・アンド・エラー(後編)」|スイッチインタビュー神奈川
アイジーコンサルティング メンテナンス事業部アフターサービス課。
創業以来120年にわたって技術とマインドが受け継がれてきた、木造住宅メンテナンスのプロフェッショナル集団だ。
その知られざる仕事の裏側に迫る。
▼前編はこちら
https://365-plus1.forlong.jp/1583
- 「実体験を伴う正しい知識」こそ、未知の脅威と向き合う力になる
- 情報を鵜呑みにせず、自分で実際に試してみる
- 現状把握・原理原則・物事の本質の先に「経年進化」がある
アフターサービス課・リーダー
2008年入社。神奈川県を中心とした関東地方の施工を担う。
宮川さんと共に神奈川県のアフターサービス課チームを導く頼れるリーダー。
アフターサービス課・リーダー
2013年入社。神奈川県を中心に関東地方の施工を担う。
現在の神奈川県内のアフターサービス課チームを率いている中心的存在。
外来種シロアリ対策の、技術課題をクリアしたい!
相川さんが今熱中している取り組みは何ですか?
一番はR&Dプロジェクト(※)ですね。
住宅メンテナンスやシロアリ防除に関する研究開発を行う社内組織
相川さんの様子を見ていると、楽しんで取り組まれていることが伝わってきます。
どんな取り組みをされているのですか?
R&Dプロジェクトは、アメリカカンザイシロアリの予防技術(※)を研究したいということで参画しました。
アメリカカンザイシロアリの「予防」(※)ですか!?
はい。私は被害が見つかり始めた2008年当初からアメリカカンザイシロアリ(※)の対策に携わっていて、これまでもより確実な駆除方法を確立すべく検証を重ねてきました。
2010年ごろからは生態研究のための飼育も進めています。
外来種のシロアリ。
日本の在来シロアリ(ヤマトシロアリ・イエシロアリ)は土中に生息するため、土壌から住宅への侵入を防ぐことができる。一方、アメリカカンザイシロアリは土壌から離れた乾燥木材でも生息できるため、屋外から飛来して小屋裏や家具・階段などに直接コロニーを形成する。
2022年現在では有効な予防策はなく、被害が発生したら都度駆除するしかない。
神奈川県内では2008年ごろからアメリカカンザイシロアリによる被害が確認されている。
(参考)日本一マニアックなシロアリウェブマガジン「EVITAGEN」
アメリカカンザイシロアリの研究飼育について
https://evitagen.net/amerikakanzai_10yeas/
未知の害虫の対策を確立するのは大変そうですが、苦労したことはありますか?
やっぱり、在来シロアリと違って予防ができないことですね。
昆虫としての生態は全く異なるものの、「アメリカカンザイシロアリ」という名前なので、お客様からしてみれば在来シロアリと同じ種類だと思われてしまいます。
「予防ができない」という説明をしても、ご納得いただけないこともありました。
今ではアメリカカンザイシロアリのことをご存知の方も増えていますし、私たちも最初からアメリカカンザイシロアリのことも含めてご説明していますが、当時の状況は全く違っていたのですね。
当時は、業界内にも十分な知見もなかったので、住宅会社や害虫駆除業者も正しい知識を持たずに対応してしまうケースもありました。中には、キクイムシの被害と見間違って対応したことで、被害が拡大してしまった現場もありました。
そうだったのですか…
正しい知識・知見の重要性がよく分かるエピソードです。
この経験から、
・技術的に駆除・予防すること
・お客様に納得していただくこと
は、別なことなのだと学びました。
そして、お客様にご納得いただくための方法は分かってきましたので、次は技術面の課題をクリアしたいと思い、R&Dプロジェクトへ参画しました。
そんな背景があったのですね…
研究の進捗はいかがですか?
過去の被害箇所を洗い出し、データを分析することで、進入しやすい場所が特定できてきました。この情報を手掛かりに予防策を検討しています。
現在は、侵入経路に予防薬剤を散布して対策できないか検証しているところです。
まさしく「トライ・アンド・エラー」な取り組みですね。
アメリカカンザイシロアリの被害から住宅を守ることは、神奈川チームにとっての使命だと思っています。今後の研究が楽しみです。
調湿材も「適材適所」!?
先日、プラスチックの容器に何か入れているのを見かけましたが、あれもR&Dプロジェクトの関係ですか?
これですよね。
私は、R&Dプロジェクトで床下調湿材の選定を担当していますので、その実験をしているところです。
普段は、横浜支店の1室を「研究室」として使わせてもらい、様々な調湿材の吸放湿性を調べています。ヒートガン(※)まで購入したんですよ。
調湿材と温湿度計をタッパーの中にいれて、時間経過でどの程度湿度が変動するのかを調査しています。
熱風を出す工具。
ドライヤーと似ているが、放出される熱風の温度は最大550℃に達する。
素材の熱加工や、塗料の乾燥などに用いられる。
この実験では、
・湿気を吐き出す能力
・湿気を吸い込む能力
この2つの性質に対して、
・量
・スピード
という2つの側面から計測していきました。
結果として、調湿材の「適材適所」に気が付きました。
「適材適所」ですか?
床下調湿材は、素材別で見ると大きく3種類に分けることができます。
・シリカゲル系
・炭系
・鉱物系
シリカゲルは、
食品の乾燥剤として使われているので、皆さん見たことがあると思います。
シリカゲルは、湿気を吸い込む能力が非常に高いのですが、吐き出す能力は低いです。
このため、「調湿材」としてはあまり適さないですが、床下浸水などで一時的に大量の湿気を吸い取る場合の対策としては有効と言えます。
炭は、
冷蔵庫や玄関の臭い取りにも使われているので、皆さんも馴染み深いかと思います。
炭は、取り込める湿気の量が多いことが特徴です。また、湿気を吐き出す能力に長けています。大量の湿気を取り込めて、なおかつ吐き出せるということは、「調湿材」として適していると言えます。
鉱物系は、
バスマットで話題になった珪藻土なども、実は鉱物系の調湿材です。
鉱物系も炭と同様に湿気を吸い込む能力と吐き出す能力の両方に長けているのですが、なんといっても湿気を吸い込むスピードが速いことが最大の特徴です。
このため、床下空間の湿度を素早く下げる必要がある時には、非常に有効な調湿材だと言えます。
現状把握・原理原則・物事の本質の先にある、真の「経年進化」を目指して
商材特性を書籍や商品のパンフレットで学ぶことはありますが、実際の実験結果があるとずいぶん納得感がありますね。
「知識」として知っていることと、「実体験」として分かっていることは別だと考えています。情報を鵜呑みにせず、本当にそうなのかを自分で実際に確かめることが重要です。
R&Dプロジェクトの中で、技術責任者の高橋取締役がよく言っているのが、
・現状把握
・原理原則
・物事の本質
この3つを抑えることが全ての基本だということです。
メンテナンス事業部では「住まいは経年進化する」というコンセプトを掲げていますが、現状把握・原理原則・物事の本質の3つを知らなければ、何をどう進化させればいいのかも分からないですし、そもそも進化しているのかどうかも分からないと考えています。
この3つをしっかり抑えた先にしか「経年進化」はないという想いで、ひとつずつ確証を得られるよう取り組んでいます。
「経年進化」の考え方にもつながっているのですね!
調湿材の研究は、今後どのように「経年進化」に繋がっていくのでしょうか?
まず、どういう床下空間なら“良い状態”と言えるのかを明らかにするため、資料・物件を調べた上で、「理想の床下空間」の定義を決めました。
「理想の床下空間」の定義、気になります!
・床下の相対湿度
・木材含水率
この2つが重要な指標です。
特に木材の含水率は、住宅の耐久性の観点からとても重要です。
含水率が30%を超えると、木材の強度を損なう「腐朽菌」が繁殖してしまいます。
逆に、乾燥させて含水率を30%以下にすると、木材の強度は高まります。
新築時に使う木材の含水率は、15~20%以下とされています。
建物の強度を評価する耐震性の計算でも、乾燥した木材の強度が前提として使われています。つまり、建てた時の耐震性を維持するためには、木材を乾燥した状態で維持することが必要なんです。
腐朽菌の繁殖だけでなく、木材の含水率自体が住宅の耐久性を左右するということですね。
そうです。
床下空間の湿気対策は、単に床下の湿気を減らすということが目的なのではなく、
「木材を新築時の状態に近づけること」であり、「木材が本来持っている強さを発揮できる湿度に近づけること」が、本質的な目的だという結論に至りました。
このことが分かってから、実際に計測した数字(床下空間の相対湿度)に基づいて、より適切な提案ができるようになりたいと考えるようになりました。
今まで、経験や感覚でご提案するしかなかったことに、改めて気付いたんです。
床下の湿度は、時間経過や季節によっても変動しますし、なかなか計測が難しそうですが、どのように研究を進めていますか?
・実際のお家はどのくらいの湿度なのか?
・調湿材を置くと、どのくらい湿気が下がるのか?
この2点の調査をするために、横浜支店の社員に協力してもらい、社員の自宅の床下に温湿度計を置いて計測しています。
宮川さんのいう通り、床下の湿度は諸条件によって変動しますので、この調査は時間をかけて取り組んでいくつもりです。
最近は、しっかりとした根拠をもとに判断されたいというお客様も増えていますし、明確な根拠を持って現場に合わせた最適な提案ができることは、私たちにとっても自信になります。今後の研究の進捗が楽しみです!
自ら課題を見つけ出し、その解決に向けて試行錯誤を繰り返すプロセスは、まさに「トライ・アンド・エラー」の繰り返し。
うまくいかないことがあっても取り組み続けることができる理由は、実体験に根差した明確な目的意識と、そのプロセスを楽しめる心の持ちようにありそうだ。
神奈川チームの「トライ・アンド・エラー」は、まだまだ続く。そこから何が生まれていくのか、これからも注目していきたい。