オープンマインドが生み出す共創の場|住宅業界を前進させる「ナレッジマネジメント」とは?

DATE : 2023.05.18
目次

2023年4月、「遊ベーシックデザインの会」の定例会が浜松市にて開催された。
「遊ベーシックデザインの会」は工務店の設計課題解決のための実践型コミュニティで、今回の定例会には北海道から沖縄まで全国から34社65名が参加。「再現性の高い設計ナレッジ」というテーマで、勉強会・意見交換会が行われた。
オープンマインドな場で経営課題の解決を目指す現場を取材した。

遊ベーシックデザインの会

アイジースタイルハウス

この記事のPOINT
  • 付加価値を生むナレッジマネジメントは「共創マインド」が起点となる
  • オープンマインドな企業同士の繋がりが業界を前進させる
この記事に登場する人
松浦喜則さん
有限会社遊建築設計社
代表取締役
会員工務店の皆さん
遊ベーシックデザインの会
アイジースタイルハウスの皆さん
アイジーコンサルティング

再現性の高い接客設計を実現するナレッジマネジメント

「遊ベーシックデザインの会」を運営する有限会社遊建築設計社の代表取締役 松浦氏による勉強会からスタート。

今回の定例会のテーマである「ナレッジ」について、
●ナレッジとは何か?
●なぜ重要なのか?
という点を、社会背景や工務店経営の実情と照らし合わせて解説されました。

松浦さん

不確実性の高い社会になっています。住宅を建てるお客様が求めていること・不安に感じられるポイントも変化しつつあります。一方で、普遍的なポイントもあります。これらの点をきちんと分析・整理することが、工務店経営においてますます重要になっています。
「ナレッジ」とは単なる知識ではなく、付加価値の高い知識です。個人が持っているナレッジを組織内で共有し、“全員で使えるようにする”ことで組織力に変えていくことが、「ナレッジマネジメント」です。

地域の住宅会社からリアルな施策を学ぶ

続いては、参加工務店同士のパネルディスカッション。

関東地方・東海地方・中国地方の工務店3社が、コロナ禍による社会の変化とどう向き合ってきたのか実例を発表した後、会場の皆さんからの質問に答える形で進行されました。
アイジーコンサルティング(アイジースタイルハウス)常務取締役 立田さんも、パネリストとして登壇しました。

「設計業務における課題は?」「集客の状況は?」といった質問から、
●プランニングのプロセスの工夫
●内製・外注の見直し
●原価高騰への対応方法
などの話題が飛び出し、工務店経営のリアルな課題が共有されました。

暮らしの変化とともに変わるLDKの使い方と提案

勉強会のしめくくりに、遊建築設計社の最新の知見が披露されました。

「LDK」の変化に着目することで、間取りの使い方・生活者の暮らし方がどのように変遷しているかを学びました。
従来の間取りにとらわれず、お客様の「暮らし方」にフィットするプランニングをしていくことの重要性を再確認しました。

ナレッジマネジメントの現場を見学

これらの勉強会を踏まえた見学会として、アイジースタイルハウス・浜松スタジオをご見学いただきました。

その後、アイジースタイルハウスが取り組んでいる「ナレッジマネジメント」について、現場の第一線で活躍している社員から説明しました。

アイジー武内さん

お客様に「アイジースタイルハウスで家を建てよう」と思っていただけるかどうか判断いただくことを、「説明同意行程」としています。
多くを語るのではなく、ヒアリングによってお客様の要望を整理していくことに注力しています。誰でも同じようにご案内するため、たとえばコンセプトハウスをご案内するときにも、どの順序で・どのタイミングで・何をご案内するのか、すべて手順を分解して決めることで、営業プロセスのナレッジ化に取り組んでいます。
取り組みの背景には、一貫したミッション・ビジョン・バリューがあります。ブランドコンセプトである「地球品質」を体現するために何をすべきかという軸です。プロセスのナレッジ化と人間味あるサービス提供の両立を目指しています。

アイジー山本さん

プランを決めてご契約まで進める段階を、「計画行程」としています。
ブランドコンセプト「地球品質」を生み出すプロセスの中で、「なぜ人間は自然と触れあうと居心地がよいと感じるのか?」という問いを持ち、人類の歴史的背景から遡ってコンセプトを深めていきました。
このコンセプトを反映したプランニングを実現するため、「設計ストーリーミーティング」と「設計ガイドラインスコア」という2つのナレッジ化の施策に取り組んでいます。設計業務を行うメンバーの育成スピードが上がったり、お客様とのお打合せがスムーズに進むなどの成果が出てきています。

アイジー佐原さん

実際に現場で職人さんと一緒に家を建てていく段階を、「実現行程」としています。
この段階のナレッジ化は今まさに取り組んでいる最中です。工事の平準化を目指し、先に工事の枠を決め、お引渡し日から逆算してお打合せを進められるよう、全体の業務フローを調整しています。

アイジー佐原さん

以前は、私を含め各プロセスのトッププレイヤーが全体を引っ張るスタイルだったのですが、それだと私たちのパフォーマンスが組織の限界を決めてしまうことに気が付きました。そこからナレッジ化を進めました。説明同意行程→計画行程→実現行程に分けそれぞれのナレッジ化がようやく形になってきましたが、形になるまでに2~3年かかりました。

ナレッジマネジメントのポイントは3つあると考えています。

●「一番できる人が、どう仕事をしているのか?」を分解・分析すること
●それを「全員ができる」ように落とし込むこと
●一度作って終わるのではなく、習得・改善し続けること

一番のハードルは最初のステップの「分解・分析」でした。想像以上に地道で根気のいるプロセスです。さらに形にしても「成果」が現れるまでには時間が掛かります。それでも途中で放棄せずやり抜けるかどうかは、私たちマネージャー層の意志次第です。

参加者の皆さんからは、多様な角度からの質問をいただきました。

●建築用地をお持ちのお客様とお持ちでないお客様とで、案内のフローは違うのか?
●自社分譲地や、建売・規格住宅の構想はあるか?
●お客様とのコミュニケーションツールは何を利用しているか?
●営業職と設計職の、お客様のリレーションはどうしているのか?

締めくくりとして、松浦社長よりメッセージがありました。

松浦さん

包み隠さずオープンに情報を共有いただき、本当にありがとうございました。
私たちも多くの気付きがありましたし、参加者の皆さんにとっても収穫があったのではないでしょうか。

印象的だったのが、「スーパースターはいらない」というお話しです。
この会の目的も同じで、必ずしも個人として“その道の達人”である必要はなく、組織・チームとしてハイレベルな仕事を安定的に実現していくことが、「ナレッジマネジメント」の目的です。建築業界としてそれを実行していくことが、業界の未来に繋がると信じています。

そして大切なことは、いい話を聞いたら必ず「実行」することです。
いいアイデアがあったとしても、実行しなければ、ないのと同じです。
ぜひ、それぞれ現場に持ち帰って実行していきましょう。

参加された皆さまの感想

参加者の方

大変わかりやすく、参考になる事例発表をありがとうございました。弊社のショールームの空間づくりや業務フローの確立など課題となっていることのヒントをたくさん得られました。自社でできることを何か一つでも社内で提案して取り組んでまいります。

参加者の方

本日は 貴重なお時間と場所を提供いただきありがとうございました。弊社は小さい会社ですが、学ぶべきことがたくさんあり参考にしたいと思います。楽しむことが全てだと確信しました!

参加者の方

アイジー様の仕事の取り組み方を聞かせていただき、とても感動しました。
それと同時に憧れや羨ましくも感じましたので、すこしでも弊社の仕事に活かせるようにしたいと思いました。

この記事のまとめ

同業界・同業種の企業同士が情報交換する場面をイメージしてみよう。
表面的な課題や取り組みの話題で盛り上がることはあっても、本質的な議論になると腹の探り合いにあったり、心理戦になったり、易々と手の内を明かすことはしないことの方がまだまだ多いのではないだろうか。

とはいえ、数年前に比べると自社の取り組みやノウハウをオープンにする場面が増えてきたように思う。そうした変化の背景として外部環境の変化が速まったことがあるのではないだろうか。「パイの奪い合いで火花を散らすよりも、パイを増やすために共創しよう」というマインドを持ったほうが、結果として成果を得やすくなっている側面がある。

今回の勉強会も、そうしたマインドを持った企業同士の交流だったように思う。
社内でナレッジマネジメントに取り組むことに留まらず、企業同士でもナレッジを共有しあうことが業界の前進に繋がる、という考え方が体現された場だった。
会場の雰囲気も一体感があり、率直な意見交換が行われる。企業ごとに考え方や判断軸は異なったとしても、どちらが正しいと断じるのではなく「そういう考え方もあるのか」と受け容れる。そういったやりとりが、当たり前のように行われていた。

その背景にあるのは、これまで積み重ねてきた会の活動による参加企業同士の信頼関係だろう。信頼という土壌がなければオープンマインドは生まれないはずだ。
一朝一夕にできることではないが、こうしたオープンマインドなコミュニケーションができるコミュニティ・ネットワークが広がることが、住宅業界の明るい未来を切り拓いていくのかもしれない。

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