「獅子の子落とし」から「バンジージャンプ」へ!仕組み化で挑む、“いいデザイン”を生み出す組織づくり
だからこそ有名な建築家やデザイナーが手がけた建築物には高い価値がつくし、資金を潤沢に持つ人でないと“良いデザイン”の住宅には住めないと思われがち。
そうした固定観念に一石を投じ、誰でも“良いデザイン”の住宅に住める世界を目指す、建築士達の姿を追った。
- 「組織としてのデザイン力向上」をテーマに取り組んだ研修
- 研修の気づきは即実行!徹底した仕組み化によって生まれた変化
- 安心して経験を積める、新たな「設計チーム」のあり方を体現
設計課 課長
設計課 主任
研修をきっかけに進めた「デザインの言語化」
建築家の飯塚豊先生が講師をされているプランニング研修へ参加しました。
優秀賞というと大げさですが、研修で学んだポイントを忠実に再現したプランだったことを高く評価いただきました。
以前から、飯塚先生の考え方にはとても共感していたんです。
建築知識ビルダーズという専門誌に寄稿されていたコラム「カタチが決まるまで間取りを書くな」を読んで、山本さんと勉強会をするなど、飯塚先生の考え方を自社の設計に落とし込むためにどうするか試行錯誤していました。
そんな時、新建新聞社が主催する工務店向けの講座で、飯塚先生によるプランニング研修があると知り、すぐに受講を決めました。
半年間・全6回の研修なのですが、受講にあたって、私も森さんも自分自身の設計力をいかに高めるか?という視点ではなく、「アイジースタイルハウスの設計課としてどう設計力・デザイン力を高めるか?」という視点で受講していました。組織として、再現性の高い設計力・デザイン力を獲得することが最大の目的です。
なので、毎回研修が終わるとすぐに森さんと打合せをして、教わったことをどうやって現場で反映するかを決めていきました。
アイジースタイルハウスのコンセプトである「地球品質」を体現していることです。
誰が見ても「これは地球品質だね」「地球品質らしいね」と感じていただけることがゴールです。
これまでも構造や性能・間取りの利便性は重視してきて、それがアイジースタイルハウスの強みでもあるのですが、そういった機能的な側面だけでなく、感性的な側面にも響くデザインが、「地球品質のデザイン」だと考えています。
たとえば、建物単体で見るとカッコいいけれど、周辺環境に馴染んでいなかったり、周辺環境を活かせていなければ、それは「地球品質のデザイン」とは言えません。
私たち設計課としては、機能的なデザインも感性的なデザインも、どちらも妥協しないプランを、いかに安定して生み出せるかが使命ということになります。
もちろん、今までも考えて設計してきたことではあるのですが、具体的な「やり方」や「手順」にまでは昇華できていませんでした。どこまでいっても私や山本さん個人の感性の範疇になってしまいますし、設計するメンバーによってバラつきが出てしまいます。
どのメンバーでも「地球品質のデザイン」を生み出せるようにするには、「デザインの言語化」がカギでした。
その点、飯塚先生は「良いデザイン」を再現する手法を具体的に言語化できる方です。なおかつ、デザインの考え方として「周辺環境をいかに活かしてつくっていくか?」を起点とされていて、私たちが追求する「地球品質のデザイン」と非常に近いんです。なので、研修の回数を重ねるたびに、今まで感覚で捉えていたことがどんどん言語化されていきました。
「デザインガイドライン」という、独自のツールにまとめていきました。
屋根・建物正面・植栽計画・室内・間取りなど、場所ごとに抑えるべきデザインのポイントを明確にし、それをスコア化したものです。「デザインガイドライン」のスコアが高いデザインということは、地球品質のデザインができている状態ということになります。
さらに、「デザインガイドライン」を100%実行するために、設計の前後工程を含めた業務フローを抜本的に見直しました。
設計の途中のプロセスにミーティングを設定し、担当者以外のメンバーの目も入れながらデザインをブラッシュアップできる仕組みとしました。
「いいデザイン」と「ダメなデザイン」を共有する
まだまだこれからだとは思いますが、メンバーの実務経験によらず、1回目に提示したプランをお客様が気に入ってくださることが増えてきているので、お客様からも一定の評価を頂けているのではないかと捉えています。
お客様からの評価が変わったのを体感したからか、メンバーの意識も変わってきたように思います。プランニングの仕事をさらに楽しんで取り組めるようになったというか。
なんでだろうかと考えると、誰かがつくったプランをブラッシュアップする時に、主観が入った指摘じゃなくなったことがあるのではないかと。「地球品質のデザイン」という共通目標に向かって意見を出せるようになって、結果としてお客様へ提案するプランのレベルが高まったのだと思います。
デザインの「基準」を明確にしてプロセスを「仕組み化」するというと、窮屈になりそうなイメージを持たれるかもしれませんが、逆に意見が言えるようになって、逆にチームとしての提案ができるようになりましたね。
今までやり切れていなかったプランの「もうひと練り」ができるようになってきたことも手応えを感じます。
設計課が組織として、
・共有できる
・確認できる
・振り返りできる
この3つができるようになった結果だと思います。
個人的なことですが、今まで森さんと「デザイン」について話合うことをしていなかったことに気付きました。設計業務のことはもちろん共有していましたが、デザインに関しては個人の主観に頼っていたことに気付かされました。
そうでしたね笑
山本さんと一緒に研修を受けたことで、「どんなデザインがいいか」を決めるのと同じくらい、「どんなデザインがダメか」を決めることの重要性を実感しました。
そうそう。研修では、自分達が提出したプランに対して飯塚先生が添削をしてくれるので、「何がダメか」が明確になるんですよね。それを参考にして、出てきたプランを見て「何がダメか」を言語化する練習を森さんとやっていました。
研修の後半には、飯塚先生の添削とかなり近いポイントを指摘できるようになっていました。
「ダメパターン」を決めないと、どこまでいっても個人の主観になってしまいます。「ダメ」が不明確だと、違和感があってもうまく言語化できず、「まぁいいか」と流してしまいますからね。
チームとしての設計力を底上げするうえでかなり重要なポイントだと思います。
「獅子の子落とし」から「バンジージャンプ」へ
今、設計課のメンバーにも飯塚先生の研修へ参加してもらっています。私と森さんが体験したことを、メンバーにも体験してもらうことで、チーム内の共通理解をさらに進めることが狙いです。「デザインガイドライン」で実際に取り組んでいることを、飯塚先生からの直接指導を受けることで、より理解が進むと思います。
お客様への提供価値を高めるために、「チームでデザインする」取り組みをさらに強化していきたいですね。
そのためには、チームとしてどう経験を積んでいくかが重要です。
私はこの取り組みを「バンジージャンプ方式」と表現しています。
過去の伝統的な育成方法は「獅子の子落とし方式」で、崖から突き落とされて自力で上がってこれるかどうか、生きるか死ぬかを問われるようなものでした。
それに対して「バンジージャンプ方式」は、思いっきり崖から飛び出せるけど、紐があるから安心できる。そんな厳しさとやさしさが共存したやり方を確立していきます。
「設計」や「デザイン」というと華やかな側面が注目されがちだが、安定的に“良いデザイン”を生み出し続けることは、地道な努力と工夫を積み重ねていくことにほかならない。
考え方によっては、そうした貴重な経験と学びを体系化・言語化し、仲間と共有することは、その人が積み重ねてきた努力を他人に明け渡すことであり、個人の強みを手放してしまうのではないかという不安を感じることもあるだろう。
しかし、その壁を乗り越えられた時に、もう一段高いレベルの「設計」や「デザイン」を生み出せる道が開けるのではないだろうか。飯塚氏の研修や、森さん・山本さんの話から、そんな可能性が垣間見えたように思う。
誰もが“良いデザイン”の住宅に住める世界にしたいと願う建築士の輪が、これからも広がっていくことに期待したい。