JAPAN WOOD PROJECT 定例会レポート Vol.1|未来の林業体制を見据えて

DATE : 2023.03.20
目次
アイジーコンサルティングの建築事業「アイジースタイルハウス」では、地元「天竜」の木材を取り囲む様々な事業者と手を組み、JAPAN WOOD PROJECTを立ち上げている。このPROJECTでは、天竜木の価値向上のために、需要と供給を円滑に進めるサプライチェーンの構築や、1本の大径材を余すことな使うための商品化などが行われた。しかし、このPROJECTの活動はここで終わらない。林業のあるべき姿を追求し、課題を解決するためには、継続的かつ発展的な取り組みが必要である。自分たちに何が出来るのか、このPROJECTをどう発展させていくのかを協議する「定例会」にお邪魔した。話し合いの様子を一部お届けしたい。

※JAPAN WOOD PROJECTについて詳しくはこちら
この記事のPOINT
  • このプロジェクトは、サプライチェーンを構築して終わりではない。
  • 一瞬の価格上昇ではなく、安定した利益を生む生産体制が必要。
  • 生産効率UPと、信頼の見える化をAIで出来ないか?
  • 県の住宅会社が皆、県産材を使うことが大事。
この記事に登場する人
アイジースタイルハウス社員
株式会社アイジーコンサルティング
建築事業 アイジースタイルハウス
住宅会社としてJAPAN WOOD PROJECTを創設
鈴木諭さん
株式会社鈴三材木店
製材された木の販売を行う流通業者
梅林大介さん
浜松木材工業株式会社
原木を加工する製材業者
浦田卓秀さん
静岡県森林組合連合会
林家・森林組合と連携する原木市場

JAPAN WOOD PROJECTの仕組み

JAPAN WOOD PROJECT(=以下JWP)では、日本三大人工美林の天竜材の価値を高め、国産材の使用率UPに繋がる様々な取り組みを行っている。林家から住宅会社までを結ぶサプライチェーンの在り方を再定義し、使用する構造材の予定を共有したり、端材を活用した建材の商品化を進めてきた。
JWP サプライチェーンの概要
毎月の定例会では、目先の住宅着工棟数を共有することで需給の計画を立てたり、市況の確認をしながら、林業の課題解決に向けた長期的な話し合いが行われている。その定例会の話の一部をご紹介する。

昨今の価格変動による影響は?

林家へあるべき還元をして、課題解決に繋げるためには。
アイジー社員

私たちJAPAN WOOD PROJECT(=以下JWP)の取り組みは、まず天竜材の価値を上げていき、お客様には地元の良い木材を使ってもらうこと・地元の林業事業者さんへその利益を還元することを目的にやってきていますよね。特に林業においては『後継者がいない・儲からない・貯金ぎりぎりで何とか回している』という悪循環を断ち切ることを、重要な課題と捉えてやってきました。

私たちの活動によって、林業に携わる後継者を育てたり、正しく儲かる体制をつくっていかなきゃいけないんですけども、たまたま色んな事業者さんと話をする中で、材木価格は上がっているのに林家さん(林の所有者さん)にお金が還元されていないという声を聞いたんです。それが本当のことなのかどうか、もしこれが本当ならばどうやって解決していけば良いのかを、この場で意見交換したいです。

浦田卓秀さん

これは私の知っている限りの話ですけど、林家さんには少なからず還元があったと思います。ウッドショックを経て全国的に木材の価格が上がって、もちろん利益も出ています。それはちゃんと林家さんに還元できたけど、林業が抱える諸問題を解決できるほどには至らなかったと思います。今の価格のラインでこの先も継続できるなら、そういった問題の解決には繋げられるかもしれない。

アイジー社員

ちゃんと還元されているなら良かったです。私たちとしてもそれが理想ですし。行政から補助金もおりているはずなのに、林家には行き渡らないなんて話もあったから、実際どうなんだろうって思ってました。

浦田卓秀さん

補助金って結構ややこしいんですよ。細かく突き詰めていくとちゃんと還元されているケースもあれば、そもそも林家さんには還元できないものもあるので。でも間違いなく、利益が出た分は還っているはずですね。

基本的な仕組みは、林家さんの山(林)を森林組合が委託契約で管理していて、伐採して製材屋さんに出していますが、その値決めがどれくらい上がったのかは、全部データで分かる仕組みなんです。市況も発表していますし。だから材木価格が上がった分の利益を、生産ラインのどこかが隠し持つことは出来ないと思います。

鈴木諭さん

例えば、何本伐採して何本出したのかも全部明確に分かるんですか?

浦田卓秀さん

分かるんだけど、実際にはそこまで細かく林家さんに共有できていないです。管理している森林組合の中にもし悪い人がいたとすると、勝手に一本抜いてどこかに売り捌く、みたいなことは出来ちゃうんですよね。そんなことは絶対にしないっていう信頼関係で成り立っている部分はあります。

もしそこまで詳細に突き詰めようとすると、数を数えるだけで一日終わるような世界なので、この体制を変えることは簡単じゃないと思ってます。しかも人間が数えるものなんて、間違いもありますしね・・・・。

原木の山
鈴木諭さん

難しいかもしれないけど、AIで画像診断したら立米数が出る、みたいな仕組みは無いんでしょうか?

浦田卓秀さん

試験的にやってみてはいます。浜工さん(製材業者)に送り届ける分で試しにやってみてる。伐採したものを計測して本数を出す機能もあるけど、一本ずつ小口の向きを揃えなきゃいけなくて時間もかかるし、その上で精度も微妙なんですよね。発生するであろう誤差を許容してくれるように、林家さんと話をしなければいけないです。

梅林大介さん

その精度に疑問が残るから、なかなか浸透しないんだね。

鈴木諭さん

以前、林をドローンで見て計測するっていう話を聞いたことがあるんですけど、それとうまく連動できないんですか?

浦田卓秀さん

あれは林の境界線を見る目的と、上から立木が何本あるのか測る目的で使われているんです。結局のところ、伐採した原木の数は人が直接見て数えてるんですよね。伐採まで森林組合に委託している林家さんが、大体の数を把握するためにドローン計測を活用している感じです。

まだ連動は難しいけど、将来的には、木の樹種ごとにどれくらい成長しているとか、材積がどれくらいになりそうとか、全部データで取れたらいいなとは思います。

天竜材の立木が並ぶ林
梅林大介さん

林家さんから原木を買う時は、トラックで運んでもらったものをうちが計測して伝票を出しているんだけど、その数字は正直どうにでも出来ちゃう。林家さんとうちの信頼関係で成り立っているから悪いことはしないけど、その辺がAIでデータになったら安心かもしれないね。信頼だけで事を済ましちゃいけない。ちゃんと見えるもので確認しながら取引することが、あるべきサプライチェーンの形かもしれないね。

原木を製材する工場
様々な建築用資材に加工される

余剰在庫を減らすには?

仕事の見える化を、林業にも。
鈴木諭さん

他にも、原木の品質の定義が地域によって違ったり、製材屋さんごとに違ったりしますよね。「この原木はこういう木だからこの製材屋へ」みたいなことって、感覚でやっていると思いますが、その選別についてもAIが活用できる未来が来るのかな、なんて思ったりもします。

人の目利き力の高さが価値になって、それを効率よく・整合性とりながら捌いていく部分にAIを使うイメージですね。

アイジー社員

ずっと前から、森林在庫と実際に使用する材の帳尻を合わせていきたいと思ってたんですよ。林家さん側が見込みで出してくれる材積量と、実際に使用する量は違うから余り在庫が出るじゃないですか。この帳尻を合わせることで、余剰在庫を減らしていきたいんですよね。この先使う分の見通しが、自社だけでなく地域全体で分かるようになると良い。

鈴木諭さん

それはぜひやりたい。製材屋さんや森林組合さんに伝わっている情報は「使った分だけ」ですけど、本当に知らなきゃいけないのは使っていない材がどのくらいあるかってことなんですよね。それを何かに置き換える作業をしていかなきゃいけない。

余剰分の使い道まで考えて、地域で使われるようになっていけば、国産材の需給率はもっと上がるはずなんです。この辺りは、流通側の私たちが特に力を入れてやっていかなきゃいけないと思ってます。

梅林大介さん

そのためには、仕事の見える化がますます大事だよね。アイジーさんだけでなく、地域の住宅会社さん一体で、何をどれだけ使うのか?という先の見通しが欲しい。それも、単発じゃなくて継続的に見通しを立たせなきゃいけないと思う。

さっきの話で、利益が出ても「問題解決のために設備投資しよう」という考えに至らないのは、この先に不安があるからだと思うんですよ。今は利益が出てもこれが続くかはわからないじゃないですか。だから、「この先も継続的にこれくらいの量が出るんだ」という見通しが立てば、前向きに課題解決へ動けると思います。

アイジー社員

分かりました。地場の住宅会社さんが全部県産材を使う流れになれば、目途が立ちやすいですよね。価格によって他県材に変わったりしてしまうと、先が読みにくいですし。この辺りの課題も引き続きJWPとしてやっていきましょう。

話し合いの様子
この記事のまとめ

今回の定例会で話し合われた議題は以下の通りである。

・材木価格の高騰により還元された利益を、林家の課題解決に使うためには?
・AI活用で信頼を見える化し、「目利き力」を価値に変えていきたい
・継続した仕事量の確保が、この先の課題解決を前進させる
・地場の住宅会社が県産材を使う未来をつくりたい

これらの課題を解決するためには、JWPに加盟する事業者だけでなく、県内の住宅会社や製材工場・IT企業などを手を組み進めていく必要があると感じる。

JWPは立場の違う事業者の集まりであるものの、天竜材の価値が上がり、県の林業を良くしていきたいという願いは一つだ。透明性の高い情報開示により、信頼関係も高まっている。この取り組みが全国各地に広がることを願ってつけられた「JAPAN WOOD PROJECT」の名を体現できるよう、今後も発展的な取り組みを継続していきたい。

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