森林の循環がキーになる、森林課題を解決する2つの取り組み。

DATE : 2022.08.01
目次
アイジーコンサルティングが取り組んでいる「N.P.O.プレンティアの森」の活動と、「JAPAN WOOD PROJECT」。活動内容は違うものの、どちらも「森林課題を解決して生きている森林をつくりたい」という思いから発足しています。1つの森から見える日本の森林課題と、その一助になる取り組みについて、『森林の循環』をテーマにお話いただきました。
※N.P.O.プレンティアの森のWebサイトはこちら
※JAPAN WOOD PROJECTについて詳しくはこちら
この記事に登場する人
森下真彦
株式会社アイジーコンサルティング 総務部 課長
アイジー入社後、メンテナンス事業や耐震事業に携わる。2007年より総務の責任者として、CSR活動を推進してきた。今ではプレンティアの森活動の運営にも参画。森の活動を若い社員にも受け継いでいきたいという強い思いがある。
吉田俊介
株式会社アイジーコンサルティング 工務課 課長
アイジーコンサルティング全体の工務課をまとめる責任者。JAPAN WOOD PROJECT生みの親であり、自身も将来は林業に携わる仕事がしたいという思いを持っている。
この記事のPOINT
  • 住宅建材用に植えられ、その後放置された山林は、人々の暮らしを脅かす存在になる。
  • 産業放置林を元の里山に戻すこと・産業放置林を増やさないこと、この両軸が大事。
  • 国産材を適正価格で、高品質な状態で安定供給できれば「国産材を使う文化」に変わっていく。

プレンティアの森から見える、森林課題

身近な暮らしにも影響を及ぼす、産業放置林の存在。
取材班

プレンティアの森の活動について、教えて下さい。

森下

簡単に説明すると、放置された樹木を伐木し、空いた土地を綺麗にして、そこにどんぐりの木を植えるという活動です。
私たちが借りているプレンティアの森にはたくさんの産業放置林があるので、まずはそれを伐木するところから始まります。

取材班

「産業放置林」とは、どのような樹木なのですか?

森下

その名の通り、手付かずのまま放置された樹木の事を言います。プレンティアの森にはスギやヒノキがたくさん生えています。高度経済成長期に住宅用の建材として植えられたものなので、「産業放置林」と言われています。日本の森林にはスギやヒノキが多いのですが、これが原因となっています。

取材班

産業放置林がそのままになる事で、私たちの生活にはどんな影響があるのでしょうか?

森下

色々あります。
例えば、無造作に生えた樹木のせいで土に陽が当たらなくなり、下草も生えなければ樹木の根も張らない。そうすると土が痩せていき、自然災害による土砂崩れが生まれやすくなります。

木の根や下草には雨水を浄化する作用がありますが、それも無いとなると我々が口にする農作物の水も汚くなります。

取材班

結構、身近な暮らしに影響を及ぼすのですね・・・・!

森下

そうですね。あとは大きなところで言うと「CO2の削減」にも繋がります。

木って何年経ってもCO2を吸着し続けるわけではなく、スギやヒノキは林齢10~20年を超えると吸着量が下がり、50年で半減、70年を超えると1/4以下になります。だから定期的に伐採しないと、大幅なCO2削減には繋がらないのです。

吉田

スギは建材になるまで30年、ヒノキは50年くらいと言われているので、ちょうどそのサイクルで計画的に伐採していくと、効率よくCO2を吸着できますね。

「森林・林業白書(平成16年版)林野庁編」をもとに作成

プレンティアの森の活動による変化について

継続した活動から見えた、本当の意味で「生きている森」の姿。
取材班

つまり、放置された山を綺麗にする活動と、適齢期に建材へ加工する取り組みの両方が「CO2削減」に繋がるのですね!
プレンティアの森の活動により、森に変化はありましたか?

森下

2009年から始めた活動なので、丸12年経ったところですが「やっと綺麗なスペースが現れた」といったところでしょうか。

この写真はしばらく経ってからのものですが、当時はもっと荒れていました。

社員とその家族を招いて行った、アイジーの森活動
森下

写真に写っている看板の後ろに、たくさんのシダ植物が生えているのが見えると思いますが、当時はこんなに生えていなかったですし、陽も入らず暗くて怖い森でした。少しずつ伐木を進めやっと陽が入るようになり、徐々に野草や山菜などが生えてきました。

生き物が増え、土の栄養価も高まっていけば、今よりもっと沢山の樹木や野草が育つようになります。1ヘクタールある森の、ほんの一部のスペースですが、この状態に仕上げるまで12年もかかりました。まだまだ手をつけなければいけない所は山ほどありますが、やっと「生きている森」の姿を見られて嬉しいです。

取材班

1つ疑問なのですが、産業用に植えられた樹木ならば、建材として使用はできないのですか?

吉田

残念ながら使えません。木には”節”がありますよね。幹に生えた枝が元になっていますが、その節が大きくなるほど木がよじれたり、節抜けしたりして、弱い木になります。伸びる枝の方に向かって力が分散するから、木目が真っ直ぐ育たないのです。それを防ぐために枝が生えたら切るなどの手入れが必要ですが、放置されきった森の木はもう手遅れですね。

プレンティアの森のように伐木してあげることが、地球環境にとって最も良い選択だと思います。

取材班

プレンティアの森で、スギやヒノキなどの「建材に使える樹木」を植えるという選択肢は無かったのですか?

吉田

スギやヒノキを植えることも不可能ではないですが、育成から製材まで付きっ切りになるので、IGで林業事業を始めなければいけないくらいのリソースが必要です(笑)今の我々に出来る最善策が、放置林を減らして新しい苗を植える事だと感じています。

元々は広葉樹が生えていたところに、住宅産業の成長期に伴い、建材に使用できる針葉樹を植えたという歴史があります。なので、プレンティアの森の活動も「昔の里山に戻そう」ということで、広葉樹であるどんぐりの苗を植えているのです。

取材班

なるほど。プレンティアの森の活動は、今のアイジーにできる最大限の取り組みだということがよく分かりました!

産業放置林を増やさない、JAPAN WOOD PROJECTの取り組み

国産材を「使う文化」の醸成。
取材班

森は違いますが、JAPAN WOOD PROJECTは「産業放置林を増やさない」という取り組みに繋がっているという認識で合っていますか?

吉田

その通り!
JAPAN WOOR PROJECTでは、日本三大人口美林の一つに数えられる静岡県天竜の木材を住宅建材として流通させる取り組みを行っています。放置林を減らすためには、住宅建材用に植えられた樹木を「使う文化」も築いていかねばなりません。

取材班

国産材は、「品質の良い、人気な樹木」というイメージがあったのですが、そんなに使われないものなのですか?

吉田

国内の木造住宅に使われる構造材の、90%以上が輸入材なんだそうです。全然使われていないですね。安く安定的に手に入る輸入材に需要が偏るのは、致し方ないのかもしれませんが、国産材だって流れを正せば適正価格で・高品質で・安定的に使用することが出来るようになるのです。

国内の森林育成においては、本当に様々な課題があって‥‥輸入材に偏った日本の住宅事情も然り、不安定な需要に耐えるため森林在庫の過多が続き、林業の収益が上がらず山林管理コストを捻出できないため、衰退してく山林がたくさんあります。まさに負のスパイラル。こういった山林が後の「産業放置林」となっていくんですよね。

取材班

適正価格で・高品質で・安定的に使用することが出来るようにするのが、JAPAN WOOD PROJECTの取り組みなんですね。

吉田

そうですね。一つ一つの課題を解決するために、森林組合や製材業者・加工業者など関連業種間で連携をとり、新たなサプライチェーンの形をつくりました。

価格高騰を抑制するために、端材を家具や仕上げ材・建具などに加工したり、需要が予測できるよう「構造材のサイズの絞り込みをするブロックプラン」を採用するなど、本当に様々な活動を行っています。

2つの活動を通して、社会へ伝えたいこと

ただのCSR・CSV活動で終わりたくない。
取材班

最後に、それぞれの活動を通して社会へ伝えたいことについて教えて下さい。

森下

この活動は長い時間軸で続けていかなければいけないですし、多くの人手が欲しいです。しかしプレンティアの森に参画している企業は10社にも満たない上に、運営者もどんどん高齢化していて、このままではあと30年も続けられないのでは?という危機感もあります。

企業として参画しているからこそ”人”の力を集めやすいですし、企業としてこの活動を継承していけば、何十年・何百年と続けられますよね。

CSR・CSV活動として謳うことは、目的ではなく手段なんです。「CSR・CSV活動をしている」で終わらせるのではなく、活動の内容を知ってもらい、参画して下さる方をひとりでも多く増やすこと。そうして、日本の森林課題を解決する力になっていけたらと思っています。

吉田

私は「産業放置林を里山に戻す」という活動と、「産業放置林にしない」という取り組みの両軸が大切だと、常々感じています。森林を循環させるこの2つの取り組みが、森林課題の解決に繋がると確信しています。

プレンティアの森の活動と似たような事例は、全国でもいくつか見かけますが、JAPAN WOOD PROJECTのように新たなサプライチェーンを構築する動きはまだ少ないです。全国に国産材の需要を喚起して、「国産材を使う文化」をつくっていきたい。だからプロジェクトにも「JAPAN」をつけました。天竜の森から始まり、全国で同様の循環が生まれることを願っています。

この記事のまとめ

森林課題は遠い山奥で起きている事実ではなく、私たちの暮らしを脅かす重要な課題であることを感じました。あるべき地球の姿を思った時に、放置された山林を見過ごす事はできない。産業放置林を綺麗にして里山に戻す「プレンティアの森の活動」と、産業放置林をこれ以上増やさない「JAPAN WOOD PROJECT」の取り組みで森林を循環させ、日本に「生きている森」を増やしたいというお二人の熱い思いを受け取ったインタビューでした。この熱量と活動を、社会に広く繋げていきたいです。

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