「組織で人を育てる」専門技術職の若手社員の成長を促す環境づくりを

DATE : 2023.06.06
目次
アイジーコンサルティングでは創業以来120年以上に渡ってシロアリ防除事業に取り組んできた。現在もメンテナンス事業部の社員の半分以上が施工や点検に携わっており、まさに職人集団だ。時代の変化に合わせてやり方を変えながら、業界トップレベルのサービス・人材育成・採用を一貫して実行し、お取引頂いている工務店様やそのお客様から評価を頂いている。 2025年には、建設業の労働人口が約90万人不足すると予測されており、慢性的な人手不足や長時間労働など、様々な課題のあると言われている建築業界。特に職人不足、若手の育成が課題とされている中、アイジーコンサルティングでは若手技術者が定着し、安定して育成ができている。人が育ち、定着しているのはなぜか。今回は、専門技術職であるアフターサービス課の教育体制について育成マネジメントの仕組みを構築・運営している古山さん、伊郷さんに話を聞いた。
この記事のPOINT
  • やりがいの創出。仕事の意義や価値を感じられるか
  • 新人育成をチームでサポート
  • ゴールの明確化と成長実感を得られる仕組みでモチベーションを維持
  • 何がエンジンに火を灯す? 個々の個性に合わせたた柔軟な指導
この記事に登場する人
伊郷峻哉
株式会社アイジーコンサルティング メンテナンス事業部 千葉店
アフターサービス課 主任
2015年入社。入社以来、専門技術職であるアフターサービス課一筋。丁寧な顧客対応・施工品質に定評がある。現在はアフターサービス課の教育運営リーダーとして新人教育にも力を注いでいる。
古山哲也
株式会社アイジーコンサルティング メンテナンス事業部 岡崎支店
アフターサービス課 係長
普段はメンテナンス事業部のアフターサービス課係長として、施工や部下のサポート・マネジメントを行う。裏の顔は、ITリーダーとして熱い野心を持ち、社内DX促進に一役買っている。
メンテナンス事業部について
住宅を長持ちさせるためのメンテナンスを行っています。主にシロアリ防除・外壁塗装・住宅定期点検を通じてお客さまの大切な住まいを守っています。
アフターサービスとはどんな仕事をしているのか?
住宅の土台・基礎を守る専門技術職です。現場でシロアリ防除や駆除工事、 その他メンテナンス工事を行っています。 住宅メンテナンス営業職がご家族様から依頼を受けた住まいの補修・改修工事を担います。

教育に対する考え方・取り組みとは

仕事の意義や価値はどこにあるか。仕事内容と共に伝えていく。
取材班

日本国内において生産年齢人口が減少するなか、建築業界では人手不足が課題となっています。特に職人の高齢化や後継者不足も問題視されており、若手の育成が課題という話をよく聞きます。
そんな中、専門技術職であるアフターサービスでは、若手社員が定着しており、安定して育成できていると伺いました。どのような取組みをされているのでしょうか。

伊郷さん

まずは初めに仕事の意義や価値をしっかりと伝えていきます。

私たちが所属するメンテナンス事業部では「住まいは経年進化する」というビジョンのもと、「住宅を長持ちさせる・お客様の大切な住まいを守る」ことを行っています。法人営業が業務提携してきた工務店様で新築戸建を建てられたご家族様宅へ住宅メンテナンス営業が訪問・定期点検を行い、ご家族様から依頼を受けたシロアリ防除・メンテナンス工事を担当しているのが専門技術職であるアフターサービスになります。
まずはアフターサービスという仕事の役割を理解してもらい、「ただ工事を行うのではない、ご家族様の大切な住まいを守っている」という仕事の価値を伝えています。

取材班

仕事の意義や価値を感じてもらう。「シロアリ防除工事を行う専門部隊」ではなく、「大切な住まいを守っているチームの一員」ということですね。

古山さん

はい、私たち専門技術職の仕事は床下に潜って工事をすることが多く、技術力も体力も必要です。普段目に見えない床下に入り、家を支えている土台や基礎を守っている、誰もができる仕事では無い、専門技術職です。自身の仕事の意義・価値を感じることができるか、仕事に誇りをもてるかどうか。仕事のやりがいを見出せるか。これは、仕事がしんどい、辛いと感じたときに乗り越えられるかどうかに大きく関わります。

取材班

続いて育成に関しての具体的な取組みについて教えてください。

伊郷さん

まず教育は、メンテナンス事業部全体で取り組んでいます。専門技術職としての知識以外にも、事業部のビジョン、ビジネスモデル、提供サービスの知識など、会社のことや仕事をするうえで必要な知識を部門共通の座学で学びますが、その他は配属された課ごとのプログラムに沿って教育を行います。

その中で専門技術職(アフターサービス)は、配属後、6か月で「施工一人立ち」できることを目標とし、教育を行っています。一人立ちの基準とは、防除工事を一人で施工ができて、安全管理や訪問時のマナー、配慮等お客様対応も問題なく行えることとしています。
教育に関しては、教育指導者と新人でプログラムを共有し、目標である「一人立ち」に向けて取組んでいきます。
教育を行う上で行っている取組は以下になります。

【教育体制】チームで人を育てる
①皆が新人教育に関わる 様々な社員と現場同行しチームで社員の成長をサポート
②新人配属前に教育指導に携わるメンバーでプログラム共有・役割・目的の明確化
③チーム内コミュニケーション 教育運営チームの定例MTGの実施
④新人とのコミュニケーション強化 日々、短時間の業務の振り返りMTGを実施

【教育プログラム】
目指すべき最終ゴールの明確化、1歩ずつできるこを増やし成長実感を得る
①10段階のステップアップ方式
②学んだ知識・スキルを見える化 経験値シートの活用
③仕事をするうえで必要な知識の習得(オンライン/eラーニング)

育成において取り入れている仕組みとして特徴的なものが「チーム体制」と「ステップアップ方式」です。

チームで新人の成長をサポート  

円滑な人間関係構築を図り、エンゲージメント高めていく
取材班

まずは教育体制について教えてください。「皆が新人教育に関わる」とのことですが、どのような体制で行っているのですか。

伊郷さん

新人教育を教育担当者1人に任せるのではなく、配属先の店長や教育運営者などチームで行っています。また、「皆で新人を教育しよう」となると、ついお節介をやいてしまったり、熱意を入れすぎて新人が辟易してしまうこともあるので、新人を見守り期待値をかける人や、実際に現場で指導する人、身近な先輩としてサポートする人など、主で教育に関わるメンバー間で大まかな役割を設け、事前に共有しています。

教育体制
取材班

チーム体制の良さはどんなところにありますか。

古山さん

円滑な人間関係構築と教育側も新人も一体となってゴールを目指していけるところです。
専門技術職の教育指導は、現場での同行指導が基本となります。以前は「一人の先輩が新人が一人立ちするまで責任を持って指導を担当する」という教育担当者を設けて
いたのですが、教育指導を担当する先輩社員が教育責任もあり、つい厳しく教えてしまって関係性が悪化してしまい、結局新人の成長を促すことができなず、エンゲージメントも低下し、学習意欲も無くなるといった悪循環を生んでしまうことがありました。

新人は新しい環境に適応するために不安を抱えています。ですので、まずは新人が頼れる先を増やし、早く職場環境に馴染めるよう、心が軽くなるようなコミュニケーションを図っていけるようにしています。チームで新人教育をするという責任を持つとともに、皆で新人を見守り成長をサポートしていくという点がポイントですね。

取材班

様々な先輩社員が教育に関わるというのは、過去の教育での失敗を受けて改善されたものなのですね。新人が頼れる先を増やすというのは良いですね。
専門技術職は現場での技術指導が多いとの事ですが、様々な先輩に同行指導を受けることで、「やり方が違う」「人によって言っていることが違う」など、指導方法の違いで新人が混乱することはないのでしょうか。

古山さん

基本の施工技術に関してはマニュアル・施工基準がありますので、よほど教育指導がズレることはありません。むしろ、様々な先輩に同行し、多くの価値観に触れ、様々な気づき・学びを得てほしいと思っています。
若手社員は、施工方法のポイントや注意点など、自身の新人時代の学び・失敗なども経験を活かし、新人が理解しやすい言葉で指導をしてくれます。新人に近い立場だからこそ新人の気持ちや悩みが理解できますし、身近な相談相手にもなってくれていますね。
ただ専門技術職なので、経験値は大きく影響します。ベテラン社員に同行すると、施工技術の高さや顧客対応力、豊富な知識量などプロとしての姿勢を学ぶことができます。先日も新人が「●●先輩に同行しましたが、レベルが違いました!凄かったです!!●●先輩を目指します!」と目を輝かせていました。成長した先に何があるのか。自身が成目指すべき姿、目標を見つけたんですよね。現場で様々な刺激を受け、自身に取り入れていってもらえたらと思っています。

目指すべきゴールを明確化

ステップアップ方式を取り入れ、できることを増やし成長実感を得る
取材班

続いて教育プログラムについてお聞かせください。「10段階のステップアップ方式」とはどのようなものなのでしょうか。

伊郷さん

習得すべきスキル・知識を10段階のレベルに分け、1つずつクリアし、最終目的・ゴールである「施工一人立ち」を目指すプログラムです。
レベル1からレベル10まであり、レベルごとに定められた内容をクリアしていき、ゴールを目指します。レベルクリアには所定の項目に対しての審査があります。
1レベルごと着実に自分の物にしていき、成長実感を得ながらゴールを目指す。やる気・目的を見失わないように工夫しています。またレベルごとの達成期間は敢えて設けず、最終ゴールに対してのみ目標期間を設けました。細かな期日設定をし、プレッシャーを過度に与えないようにしています。

1つのレベルごとに与え定められた課題をクリアしていき、一人立ちというゴールを目指す。
取材班

1つずつのステップ・プロセスには期限は設けず、最終ゴールのみ目標となる期限を決めているのですね。
実際に、「10段階のステップアップ方式」に取り組まれているメンバーの反応はいかがですか?

古山

新人からは、やるべきことが分かりやすいと好評です。学ばなくてはいけないことが体系化されているとゴールが明確になりますから、技術のばらつきがなくなり一定以上の作業品質に辿り着くまでは早くなります。また指導する側としても、何をもってクリアとするのか、何を教えるべきなのかが見える化されているので教育の漏れ・ムラを防ぎ過不足なく必要な知識・スキルを指導することができていますね。


取材班

新人には、ステップが見える化されており、成長を感じながら着実にゴールを目指していくことができ、教育側にとっても指導すべき内容の明確化ができるよう仕組化されているのですね。「チームで新人を教育する」新人も、教育に関わる全ての人にとって分かりやすくてよいですね。

古山

はい。新人に与えられた「一人立ち」という目標を明確にすることは必須です。そのうえで「目標達成のためになにをすべきか。」目標達成へ導くために私たち指導者がサポートしていきます。新人も、何をすべきかが明確になり、行動がしやすくなります。

私たちは専門技術職ではありますが、施工技術だけが優れていれば良い訳ではありません。教育プログラム・仕組みは、組織として求められる「施工技術・品質・顧客対応力」を身に付けるためのものです。組織としては均一なサービスを提供することが求められます。「一人立ち」は弊社で定める一定基準のサービスを提供できる施工技術員であるという証となります。また品質の担保にも繋がっています。

IT活用 いつでも・どこでも学べる環境

タブレットで学ぶ・必要な情報・資料は簡単検索
取材班

施工技術に関しては現場で学ぶと思いますが、他にも業務を行うにあたって覚えるべき知識の習得や事務作業などは座学研修があると伺いました。どのようにされているのですか?

伊郷さん

弊社で取り扱っている商品・サービス知識やシロアリの生態など、習得すべき知識は多数あります。そちらはオンラインで研修の時間を設けたり、eラーニングを活用し自身で計画を立て動画学習をしてもらいます。教育に動画を積極的に取り入れています。
また、メンテナンス事業部では専門技術職・営業職ともに業務はすべてタブレット端末で行います。必要なマニュアル・資料などはすべてタブレットに入っているので、紙で印刷するということはほぼありません。タブレットにて常に最新情報が共有できるので、「このマニュアル・資料が古い」と現場で混乱することもありません。

古山さん

ちなみに、お客様宅で施工のご説明をする際もタブレット端末で行います。業務はすべてタブレット端末・スマートフォンで完結するようになっています。
「図面を紙で印刷して現場に持っていく」ということもなく、すべてタブレット端末・スマートフォンで必要な情報を確認できる状況です。ペーパーレスでスマートな働き方は、新人にとても好評です。そして若手社員は覚えが早く、「こんな使い方どうですか?」など提案をしてくれることもあります。タブレットの操作に関しては若手がベテラン社員に教えるなど、自然と会話が増え、予想外の部分での交流・コミュニケーションにも繋がっています。

教育をするうえで心がけていること

個々の価値観をキャッチアップし、指導方法に反映させる
取材班

新卒教育・指導をするうえで心がけていること・大切にしていていることはありますか?

伊郷さん

どんな指導をするにあたっても信頼関係を築くことが必要です。人間関係が成立していないと教育はできません。ですので新人との対話の時間を多く設けるようにしています。
また分からないことを放置させないよう、毎日、学んだことの振り返りを上司・先輩と15分ほど短時間で行うように促しています。上司が忙しそうで聞きづらかったり、不明点があっても現場で聞くタイミングがなかったりもするので、覚えているその日のうちに質問・相談しやすい環境を作っています。疑問点や不安の解消だけでなく、雑談を踏まえたコミュニケーションも大切にしています。また、期待値を伝えたり、成長・成果を褒めたりと、ポジティブなフィードバックも積極的に行っています。

「今日の現場、どうだった?」疑問点はその日のうちに解決を。雑談を交えたコミュニケーションで関係構築を。
古山さん

指導に関しては、通り一辺倒の指導をメンバー等に行うことはしません。価値観の違いや、その人の個性や性格、得意・不得意なこと、物覚えの良さなども考慮しながら指導方法や接し方を調整しています。職人・技術職というと「背中を見て覚えろ」というような職人気質がある職種と勘違いされがちですが、こちら側から新人に寄り添っていますね。やる気スイッチはどこにあるのか、何をしている時がモチベーションがあがるのか。個々の特性を見て柔軟に変更しています。

取材班

教育の「仕組み」をベースとしつつ、個々の個性・価値観を尊重し、新人に寄り添いながら共にゴールを目指す。モチベーションに繋がる「やる気」スイッチをいかにして推すことができるのかが1つのポイントとなっているのですね。

古山

はい。やはりモチベーションが低下してしまうと、仕事に前向きに取り組めないですよね。「どのような言葉が、心に響くのか。伝わりやすいか。」を見極めつつ、ゴールに向かってプロセスを進んでいけるようにサポートしています。そしていかに自己効力感を持つことができるか。自信を持って前向きに楽しく仕事ができる環境がベストだと感じています。

また「一人立ち」は、ゴールでもありスタートです。ここから、将来どうなっていきたいか、中長期のキャリアプランを共有し、サポートしていくことが大切だと考えています。そして若手社員の成長が企業の成長にも繋がると思うのです。これからも新人の成長をより促進できるように、また組織として最高のサービス・品質を提供できるように取り組んでいきます。

この記事のまとめ

建築業界の就労者数は減少の一途をたどっている。若手の育成が課題とされている中、現場でどのように育成をしていくのか。

特に専門技術職は、何をもって一人前とするのか明確なゴールが見えにくい。アフターサービス課では、まず新人が目指すべきゴールを明確化し、そのために身に付けるべき技術・知識・対応力を現場で過不足なく習得する仕組みが構築されていた。またプロセスを見える化し成長実感を得ながらゴールを目指し、途中でやる気・目的を見失わないように工夫もしている。
今は「背中を見て覚えろ」というような職人気質な指導の時代ではない。専門技術は現場で指導をし、必要な知識はITも活用しながら効率的に学んでいく。仕事の意義や価値を伝えられているか。またどんな価値観を持っているのか。何にモチベーションを感じるのか。指導側の考えを押し付けるのではなく、新人に向き合い、寄り添いながら成長をサポートしていくことが1つの鍵となりそうだ。
新人・若手の成長は、組織の成長である。「組織で人を育てる」これからの時代を担う若手の成長・挑戦をサポートできる環境を皆で作り上げていく。その想いを皆が持つことが若手育成において大切だと感じる。

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