工務店様と共に住宅市場の未来を切り拓く|新建新聞社 × アイジーコンサルティング トップ対談(前編)

DATE : 2024.12.20
目次
近年、住宅業界は新たなステージを迎えています。新築住宅市場の縮小が進む中、未来への突破口をどこに見出していくのか。今回メディアという分野で建築業界を牽引する新建新聞社代表取締役社長三浦祐成様をお招きし、弊社代表取締役 瀧澤と今後の建築業界の展望についての情報交換をしました。前編・後編の2回に分けてお届けします。ぜひご一読ください。
この記事のPOINT
  • 住宅業界の未来について考える
  • 多くの工務店様との関わりの中で感じること
  • 「問題の発明」と「経年進化」で新たな価値を創造する
この記事に登場する人
三浦 祐成
株式会社新建新聞社 代表取締役社長
「新建ハウジング」発行人
大学卒業後、新建新聞社に入社。新建ハウジング編集長を経て現職。ポリシーは「変えよう!ニッポンの家づくり」。「住宅産業大予測」シリーズなど執筆多数。
瀧澤 幸也
株式会社アイジーコンサルティング
代表取締役
1998年アイジーコンサルティングに入社。メンテナンス・リフォーム・新築事業と現場責任者を経験した後に東京事業本部を立ち上げる。2023年より現職。
井上 元太
株式会社アイジーコンサルティング
専務取締役
メンテナンス・建築事業での実務経験を経て2019年に経営企画室に所属。2022年に全国ネットワーク「ieGress」立ち上げ。2023年より現職。本対談のインタビュアーを務める。
新建新聞社様について
創業1949年。長野県長野市に本社を置く「インフラメディア」企業。自らも地域に生きる中小企業である企業市民としての目線と当事者意識をベースに、「建設」「住宅」「危機管理」という地域のインフラに関わる分野で専門メディアを発刊。 地域の企業と人を安心・元気にすることを目指している。

工務店が地元のスター企業になるには

井上さん(インタビュアー) 新築住宅市場の縮小が加速する中、地域工務店は未来への突破口をどこに見出すと良いと思いますか。地元の工務店が今後発展していくために必要なのはどのようなことなのでしょうか。

三浦さん 2つの道があると思っています。1つ目は「アーキテクトビルダー」という造語を用いて表現しているものづくり・建築を極めていく道です。「アーキテクトビルダー」は建築を追求することに喜びを見出す人たち向けの考え方で、特に小さな工務店で社長が設計や現場出身である場合に選ばれることが多いように感じます。2つ目は「よろずや型」で、建築を中心に地域の住生活に必要なサービスや商品を提供する道です。既存住宅を商売の対象にするかどうかが2つの道の一番の違いで、「アーキテクトビルダー」はアフターサービスやリフォームへの意識が低い傾向がありますが、「よろずや型」は引き渡し後の住宅のアフター・リフォームにも着目してビジネスを展開します。新築市場の縮小によって、多くの工務店にとって「よろずや型」が理想的なっていくのではないでしょうか。

井上さん 「よろずや型」のような引渡し後の住宅・既存住宅も飯の種として捉えていくことが1つのポイントとなりそうですね。お話を伺っていて、これは弊社が提唱している「アフターマーケティング」、お客様と永く関わり続ける中でLTV(顧客生涯価値)を最大化させていくという考え方と通ずる部分があると感じています。瀧澤社長は、このあたりをいかがお考えでしょうか。

瀧澤さん 確かに、「よろずや型」の1つの展開として「アフターマーケティング」の考え方は多角化という面でも合致すると感じています。引き渡し後のアフターフォローを通じて顧客満足度を向上させ、リピート購入を促進・ロイヤリティを向上し、口コミによる新規顧客の獲得を目指していく。ただ私たちは売り上げの為だけに「アフターマーケティング」を提唱しているわけではありません。
弊社では「住まいは経年進化する」という考え方を非常に大切にしており、経年劣化や経年美化ではなく、住まいが時を経て進化していくような世界観を築きたいと思っています。この考え方を、弊社だけでなく、他の工務店様や競合企業様とも共有し、新たな市場や未来に向けた工務店業界の改革に繋げられたらと考えています。私たちが目指すのは、売り上げや規模の拡大ではなく、進化の世界観を追求することです。
また、建物をつくること自体も大切ですが、その後にどう価値を高めていくかが重要だと思っています。そのため、建築後の価値を、ハード面やソフト面でどのように向上させるかを、他の企業様とも協力しながら模索しているところです。今はまだ、具体的な答えがあるわけではありませんが、この方向性を持って進めているところです。

三浦さん 新築市場は世帯数が増えず、住宅ストックが多くなってきたことで、今後あまり伸びないと思います。しかし、建てられた家の数は増え続け、住宅ストックは積み上がっていく一方です。日本全体で考えると、このストック市場は非常に大きく、今後も縮むことはないでしょう。むしろ、住宅関連市場で唯一成長が見込まれる部分です。
 工務店にとって、住宅ストックの増加は二面性を持っています。アフターサービスの負担やクレームのリスクが増える可能性もありますが、逆にこのストック市場を「宝の山」と捉えれば、ビジネスチャンスとして活かせるのです。この視点を持つことで、工務店業界の未来が明るくなるか、逆に停滞するかが決まると思います。
 そこを理解していただくのがアイジーさんの言う「アフターマーケティング」という切り口で、実はまだまだ成長・貢献できる部分があること、日本の家づくりを良くできるんだということをどのように多くの工務店さんに発信していくかが重要です。それは弊社もそうですが、アイジーさんと一緒に取り組んでいきたいなと思いますよ。

住まい手に選ばれるために大切なこと

井上さん 先ほどストック市場について少しお話がありましたが、ここで改めて、三浦社長が考える今後の建築業界全体の動向についてお伺いしたいです。ストック市場の変化以外にどのような変化があるとお考えでしょうか。またそれにより今後何が重要となりそうでしょうか。

三浦さん 最近は、「プロシューマー」と呼ばれるよく学ぶ消費者が増えています。私はこれを住宅業界に当てはめて「プロ施主」と呼んでいます。プロ施主たちはインスタやYoutubeで得た情報をもとに、同じような家づくりを求める傾向があります。これが引き起こしているのが「同質化」です。
同質化は、今、工務店が抱える課題の一つだと思います。多くの工務店が似たようなホームページやサービスを提供しているため、消費者は選びにくくなっています。特に若い世代は安心感や信頼性を重視するため、ブランド力のある大手ハウスメーカーや地域のトップビルダー、500棟以上の規模のビルダーが成長しています。一方で、同質化に陥らず、独自性を持って尖っている企業も元気で、業界は二極化しています。また、お客様の満足度の要求水準が上がる中で消費者の発信力が高まっているため、満足度の高い顧客はポジティブな情報を発信してくれますが、満足できないとネガティブな情報が広まるリスクもあります。そのため、住宅会社は自社で強みを磨く部分と、外部パートナーと協力する部分を区別することが重要です。安心感や品質など、どこを強化するかを明確にしなければ、今の市場では選ばれにくくなっていると感じています。

瀧澤さん 同質化が進むと、情報発信の影響で、ますます「安心感」が消費者の選択基準の中心になっていくというのは確かです。ハウスメーカーや地域ビルダーの一定層が安定しているのも、その「安心感」が大きな要因だと思います。同質化が進むほど、安心感が選ばれる際の重要な要素になっていると感じます。
一方で、人材の確保も非常に厳しくなっている中で、規模の小さな工務店様が自社でアフターを強化するのが難しいといった声もよく伺います。三浦さんの仰るように、安心や信頼が家づくりの選択の決め手となっている市場でふるい落とされないためにも、アフター体制の構築をしていただくと良いと思いますし、弊社のような外部パートナーも上手く活用していただきたいです。
 またシロアリ防除工事でお取引のある工務店の経営者様と意見交換をするのですが、その中で、自分たちの経営理念や思いをもっと明確にして独自性を打ち出そうとしても、時間が経つにつれて他社と同じようになってしまうケースが多いと感じます。たとえば、価格競争に巻き込まれたり、他の要因で個性が薄れてしまうことがよく見受けられます。

三浦さん 同質化せず尖った企業であることも難しいですよね。サッポロビールを例に上げるとマークの★星印は尖っていますよね。これが丸くなったら同質化です。その尖っているところをコストカットすると丸くなっちゃうんです。
 自分たちが内製化する部分はいかに自分たちを磨き込んでいって尖るのか。尖らせる部分に注力するために自分たちが苦手な部分や、やりきれない部分を、いかに外に出してパートナーと一緒に組んでいくかという部分ですよね。
 私はなんだかんだ言って、選ばれる理由は、やっぱり最後は人だと思うんです。だから、「この人に頼みたい」っていう世界観は絶対まだ残るし、これからもっともっと残っていくので、安心という部分も担保しつつ、最後、魅力的な人がいるとか誠実な人がいるとか、すごいスキルが高い人がいるとか、そういうものも選ぶ理由に統計データで見てもなっていますし、最後は「人」かな、という感覚もあります。

瀧澤さん 私も「人」は大切だと考えています。弊社の4代目(先々代)社長が昔経営でも同じことを言ってたんです。経営は「円熟」ではなく「角熟(かくじゅく)」であれと。円熟経営ではなく角熟経営です。そして人間も同じで「円熟」ではなく「角熟」であれと。人の個性を大切にしていく、企業は人なりじゃないですけども、人にフォーカスを当てるときにどういうフォーカスを当てていくのか。また最低ラインを合格ラインにするのではなくて、尖りをもっと尖らせる。そこは企業姿勢として弊社も大事にしている部分かもしれません。

三浦さん 丸くなると良いイメージがしますが、確かに尖っている部分が個性ですね。丸い人材だと嚙み合うことなくスルスルと滑ってしまう。
角がある人材を組み合わせるのがまさに石垣だとかの世界ですよね。
みんながYoutube見てNewsPicksなどの同じメディアを見ると、みんな同じようなことを言う。同質化ってまさに丸くなることですし、それは人でも起こり得ること。「角熟」すごく良い言葉ですね。

この記事のまとめ

これまでの対談で見えてきたのは、地域工務店が新築市場の縮小という逆風の中でも未来を切り拓くためには「独自性」と「信頼」をどう築き上げるかが鍵になる、ということです。「よろずや型」の展開やアフターマーケティングの考え方、さらには「角熟」という人や企業の個性を尖らせる姿勢が、今後の工務店業界において重要な武器となりそうです。
後編ではさらに深掘りし「同質化が進む住宅市場において大切なこと」について探っていきます。ぜひ後編もご一読ください。

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