難しさから目をそらさない。「設計の標準化」で仕事がもっと楽しくなる!|アイジーグループアワード特集
- 設計課も成長していることを伝えたかった
- 設定したゴールが励みになり、乗り越えた先の楽しみを得られた
- 誰もが教える側・教わる側になり、全員主体で取り組んだ
プロジェクトの概要とアワードについて
設計課のプロジェクト「再現性のある地球品質デザインの実現」は、工務店設計塾の受講により得た気づきを取り入れ、「地球品質デザインガイドラインを策定する」という取り組みである。取材班 まずは率直にアワードの感想を伺いたいです。伝えたかったことはどんなことなのか、入賞賞金の使い道などなど、ざっくばらんに教えてください!
手島さん 優勝して30万円もらえたらどうするかは、ほぼ考えてなくて・・・ノミネートされたのが奇跡だと思えるくらいだったので、考えてませんでした。
5万円でさえどう使っていいのか分からなくて、設計課みんなが使える文房具を買いました!
手島さん 皆さんからいただいた感想の中に、「設計課はただ家を造るだけじゃなくて、お客様といい家作りをするために日々奮闘し、そこに向けてブラッシュアップし続けているのが良い」といった内容があって、伝えたかったことがちゃんと伝わっていて良かったと思いました。
アイジースタイルハウスの成長を感じてもらえたし、社員の皆さんにも応援してもらえるきっかけにはなったのではないかなと思います。
取材班 ありがとうございます。山本さんはいかがでしたか?
山本さん 設計力や設計ルールを数値化するのは難しいことですけど、そこにチャレンジしたことで属人的な状況から1歩脱却できました。この事実をアワードで伝えたいと思っていました。例えば、上司など経験値のある人が「このプランは良くないね」とか「俺はこっちの方がいいと思うよ」といった『主観』で評価をしてしまうことって、どの仕事でも往々にしてあると思いますが、それはただの印象評価ですし、誰に相談するかで回答が変わってしまうのも困りますよね。
何が良くて・良くないのか、ということを1つずつ明確にするのがこのプロジェクトの本筋でもあり、「設計の標準化」に繋がる取り組みになったので、皆さんにも参考にしてもらえたらと思いました。
取材班 そういった「伝えたいこと」を伝える場としてアワードにエントリーをされたのですか?
山本さん それもあります。元々は、浜松スタジオで進行中の多種多様なプロジェクトを全部エントリーしてみよう!という話から始まっています。
佐原さん(アイジースタイルハウス浜松スタジオ マネージャー)から「このアワードを振り返りの場にしたいよね」という助言をいただいて、確かに自分たちがやってきたことをまとめて振り返る良い機会だなと思いました。自分たちが当たり前にやっている取り組みが、周りから見たら実は凄いことかもしれないですし。アワードの目的とは違うかもしれませんが、積み上げてきたことを言語化して残すためにエントリーしてみようと思いました。
取材班 最終決戦である、5つのプロジェクトにノミネートされていかがでしたか?
山本さん もちろん、良い取り組みだという自負はありましたけど、正直申し上げるとノミネートされるとは思っていなかったですね。優勝できませんでしたけど、個人的にはそこを狙うよりも「設計課の課題に対してどういう取り組みをして、どのように変わったのかを紹介したい」という思いが強かったので、ノミネートされただけでも十分嬉しかったです。
ガイドライン作りと、メンバーの関わり方
取材班 ガイドラインの中身を作るに辺り、デザインの価値観を言語化することは一見難しそうに感じるのですが、どういう話し合いでこれだけの評価項目を作り上げていったのでしょうか?
山本さん 参考になるものが無かったので、本当にゼロベースで話し合って作っていきました。まずはガイドラインを3つの大項目に分けて、それぞれ項目の内容を決めていきました。
●地球品質デザインコンセプトを言語化する
●設計の定石を言語化する
●構造ルールを言語化する
例えば設計の定石についてお伝えすると、「階段を上がりきったところに開き扉を設けてはいけない」とか「玄関ポーチは奥行き1200mm必要」などが該当するのですが、当たり前に知っていることでも建物プランニングの過程で意外と見落としてしまうことってあるんですよね。若手メンバーだと知らないこともあるでしょうし。こんな感じで設計として絶対に押さえるべきポイントを書き出していきました。
取材班 これらの書き出しは、設計課の全員で行ったのですか?
山本さん まずは僕と林さん(アイジースタイルハウス 部長)、そして森さん(アイジースタイルハウス設計課 課長)でどんどん書き出していきました。その後、言葉の意味をちゃんと理解するために、メンバーへ向けた勉強会を開催しました。言葉一つでも受け取り方が変わるので、とにかく丁寧に落とし込んでいきました。その勉強会を重ねる過程でもブラッシュアップを続けて、1年くらいかけて完成させていきましたね。
手島さん 完成したのが1年前ぐらいなんですが、ちょうど設計の若手メンバーがお客様の担当を持ち、建物プランニングのお打ち合わせを実施していくタイミングでしたので、そこに向けて習得しながら完成させていきました。ブラッシュアップには設計課みんなが関われたと思います。
取材班 ガイドラインを使い始めて、デザイン力やプランニングのレベルが上がったのは実際の事例を見てもよく分かるのですが、それ以外に変化したことはありますか?
山本さん やはりスキルの習得が早くなったという点ですかね。設計に限らずですけど、「経験を積め」とか「上司の背中を見て学べ」といった慣習がある業界じゃないですか?そういった曖昧な教え方・覚え方をするのではなく、明確なガイドラインに基づき建物プランニングを学べるようになったので、一人でお客様を担当できるようになるまでの期間も大幅に短縮しました。
実務とプロジェクト、同時進行の乗り越え方
取材班 実務とプロジェクトの同時進行は大変だったのではないかと思うのですが、その大変さをどうやって乗り越えていきましたか?
手島さん まずは毎週木曜日に2時間、勉強会を必ずやると決めて予定を押さえたので、やるしかない!という状況に持っていったことが大きかったかなと思います。あと私たち若手メンバーは、これを習得した先にお客様の担当を持つというゴールを決めていたんです。いつから担当を持ち始めるのかも決めていたので、そのゴールまでに習得してお客様に良い建物プランをご提案したい、という思いで必死にやりました。
それまでも「コーディネーター」という、内装・外装の仕様決めの担当者としてお客様と関わってきたのですが、本当は建物プランニングから一貫して担当出来る方が良いって思ってたんです。お客様との関係性もより深くなりますし、お客様の理想をより形にしやすいので。ガイドラインの習得には心が折れそうになる時もありましたけど、一設計士としてこうありたいという理想や、お客様の担当を持つというゴールが励みになって、折れずに頑張れたと思います。
あとは一人じゃなかったのも良かったです。一緒に学ぶ設計メンバーと切磋琢磨できましたしね。
山本さん このプロジェクトはメンバーが主体的に取り組めるようにしたいと思っていたので、なるべく上下関係を無くすことを心がけました。どうしても教える側・教わる側の構図は出来てしまいますけど、僕たちが完成させるわけではないんですよね。僕たちが作るものが必ずしも正解ではないということを根底に置いて、言葉が不十分であったり、使いにくい所があればどんどん意見を挙げてもらいました。僕たちも教わる側として、共にブラッシュアップをしていきました。
あとは手島さんが言うように、ゴール設定が大事だったと思います。最終的にはお客様に還元されることであり、それを励みに変えて頑張れたんじゃないかなと。「これは何のためにやっているのか?」が分からなくなるとエネルギーを維持できないですしね。当初、手島さんは拒絶してましたけど、途中から「プランニングが楽しい」ってなってましたよね。
取材班 なんで拒絶してたんですか!?
手島さん やっぱり難しいことですし、自分に出来るのか不安だったからですね。コーディネーターとは違って、これが正解!といった型のようなものも無かったですし・・・。ガイドラインが出来て一つずつ学び、習得していく中で、徐々に不安が解消されていきました。
取材班 どの辺りから楽しくなってきましたか?
手島さん 実際にお客様の担当を持つようになってからですね。勉強会の内容が実って、お客様にしっかりとしたご案内ができて、建物プランをご提案して良い反応がもらえた瞬間、一気に楽しい気持ちになりました。
山本さん こういうポジティブなメンバーが増えてくると、チームの空気も変わるんですよね。自分に出来ることが増えて、お客様も喜んでくれて、建物プランニングがより楽しくなる。周りのみんなも影響を受けて頑張れる。この循環が出来て良かったなと思います。
取材班 ありがとうございます。ちなみにこのプロジェクトは、ガイドラインが完成したことで一旦終了しているのでしょうか?
山本さん いいえ、現在進行形ですね。ガイドラインの中身の更新は日々継続していますし、ガイドラインの大元であるデザインコンセプトからより良くしていくために、勉強会も継続しています。勉強会で学んだことを元に、ガイドラインのブラッシュアップをするという循環ができています。
手島さん 継続的な勉強会の甲斐あって、アワードの発表以降もデザイン力が高まっています。更に良い事例をご紹介できると思いますので、来年のアワードにもご期待ください!
デザインガイドラインの策定と習得が、建築設計のあり方に新たな風を吹き込んでいると感じられる取材であった。社歴に関係なく建物プランニング力の習得スピードが早くなり、より良いご提案が出来るようになる。お客様にとっては、誰が担当になっても良い提案がもらえる。そして、自身のスキルアップがお客様の喜びに変わり、この仕事がもっと面白くなる。この循環こそが標準化の醍醐味であり、このプロジェクトの一番の成果と言えるだろう。
難しく目を背けがちな設計力の標準化に対して、真摯に向き合い、努力し続けた設計課。彼らのプロジェクトは止まらない。今後の活躍にも期待が膨らむ。